甘やかしてかわいがることを「猫可愛がり」などと言いますが、
文字通りにヒトがネコをかわいがる様子を目にすると、
こちらも微笑まずにはいられなくなります。
飼い猫たちの後頭部から、
耳の後ろの付け根の柔らかい産毛を人差し指でそうっと撫でたり、
きくらげのような感触のひんやりした耳たぶをつまんだり捻ったりしているうちに、
「噛んでみたい!」という衝動に駆られたことがあるのですが、
猫飼いの(若しくは猫に飼われている)皆さまはいかがでしょうか......
肺結核で夭逝した作家・梶井基次郎の「愛撫」という作品の中で、
猫の耳を実際に噛んでみた、という文章があります。
「子供のころから猫の耳の持っている一種不可思議な示唆力により、ぎゃー、ヒドい!でも気持ちはちょっと分かります…
その耳を一度「切符切り」でパチンとやってみたくて堪らなかった。」
あのくにゃくにゃした不思議な猫の耳袋についても妄想がどんどん膨らみ、
「巧妙な補片(つぎ)が耳を引っ張られるときの緩めになるに違いない」と信じて
「猫の耳は不死身のような疑い」を持つに至り、
とうとうある日その耳を本当に噛んでしまいます!
その気の毒な猫は噛まれるや否や、痛さに悲鳴をあげた様子を
(強く噛むほどだんだんと強く鳴くのが)木管楽器のクレッセンドのようだ、
と形容しているのですが、ガブリと一気にではなく、少しずつ力を入れて噛んでみたようです......
うううううううううううううううぎゃああ
というような悲鳴だったのでしょうか......
その他、
猫の手を化粧道具にして、白粉を塗る女性が出てくる夢を見たあと、
前足の裏の肉球を自分のまぶたに当て 、その温かさにしみじみ
「此の世のものでない休息」を味わったりするのですが、
私にも覚えのある、フェティッシュな猫の可愛がり方あれこれに、
ついニヤリとしてしまいました。
*「愛撫」は著作権が切れているので、青空文庫(電子図書館)で全文を読む事が出来ます。